ウクライナへのロシアの軍事侵攻による米ロの厳しい対立は北極にも広がっています。
その中でロシアは国策として原子力砕氷船の建造と配備など北極海航路の整備を進めています。
そして欧米の厳しい経済制裁に対してロシアは北極海とグローバルサウスの国々をむつびつけることで活路を見出そうとしています。
北極海航路はアジアとヨーロッパを結ぶ最短航路で、スエズ運河周りのルートよりも30%以上距離が短くなります。
北極圏で生産した液化天然ガスなどがこの航路ですでに運ばれています。
北極の氷が温暖化の中で減少する中で、ロシアは海洋国家としての未来を北極海航路の実現にかけています。
ウクライナの軍事侵攻によって、ロシアとほかの北極海の沿岸国、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどとの対立は激化、しかしロシアは、北極海航路の実現を計画通り進めるとして、2035年までに輸送量を今の4倍以上の2億7千万トンにするとの強気の姿勢を崩していません。
その中核となっているのが、国営の原子力企業ロスアトムです。
ロスアトムが北極海で担うのは、洋上船舶型の原子力発電所を配備するなどして沿岸のインフラを整備すること、将来的には15の洋上原子力発電所を北極海航路に沿って配備するとしています。
そしてもう一つは、原子力砕氷船の配備を特に氷の厚い東側で進め、北極海航路の通年運航を実現することです。
今は7隻ですが2026年には9隻に、2030年代には13隻まで増強する計画です。
ロスアトムは世界最大の原子力企業で、ウランの濃縮から発電、再処理、そして核廃棄物の貯蔵まですべてを行う能力を持つ国営企業です。
ロシアが占領したウクライナのザポリジェ原発の運営もロスアトムが行っています。
ロスアトムは企業としては、アメリカや日本などの制裁リストには入っていません。
それは世界の原子力発電の原料である濃縮ウランの生産はロスアトムが世界の45%程度を占めていて、アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存しているからなのです。
アメリカは今もロシアから濃縮ウランの輸入を続け、十億ドルをロスアトムに支払っていて、プーチン政権としては、北極海航路の主体となる企業をロスアトムとしているのは、欧米からの制裁を受けにくい体質を利用しようとしているのかもしれません。
北極海航路は温暖化で北極海の氷の面積が減少したことが一つのきっかけとなっていますが、もう一つは冷戦が終結して、壁に閉ざされていた東西の物流が開かれたということも大きな契機となりました。
しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、欧米とロシアが厳しく対立し、北極海航路の実現に強気の姿勢を示すロシアですが、北極海航路をめぐる地政学的な状況は厳しくなったといえるでしょう。
米ロの核兵器が最短距離で向かい合うのも北極海です。
冷戦時代から氷に覆われた北極海は、米ソの原子力潜水艦がお互いに追尾しあう場です。
今は氷が解けて、海上でもロシアとアメリカやカナダ、ノルウェーなどNATO加盟国の対立の最前線という軍事的な性格を強めています。
国際協力が必要な問題も話し合う場だった北極評議会はロシアとアメリカの対立の中で機能不全に陥っています。
微妙なバランスの上に成り立つ北極海の自然環境の保護や温暖化対策そして少数民族の保護など、国際協力が必要な問題は山積みしています。
地球全体に影響を与える北極海を守るためにもどのようにロシアと対話を継続していくか、難しい課題となっています。