2023年08月31日

福島原発処理水放出を巡る中国の反応

  IAEAがお墨付きを与えた今回の放出ですが、中国では政府も市民も大反対をしています。

  政府は不安を煽るニセ情報を放置して反対論を後押ししています。


  中国支局の日本記者のなかには、「中国人は自分の健康を非常に気にする。それをうまく利用された格好」だと指摘する人もいます。


  日本政府は他国の原発と比較してもトリチウムの放出は少ないと訴えますが、中国の反対派は今回の原子炉の炉心に触れた水はトリチウム以外のセシウムなどの物質が多いはずと主張し、逆に日本人は洗脳されている言いだす始末。



  日本政府が世界にどのように説明しているかというと、英語、韓国語、中国語で放出の仕組みや安全性をアピールしたユーチューブの動画を流しています。

  中国はユーチューブを政府の規制で見ることができませんので、中国大使館が中国のSNSウェイボーなどで情報発信しているようですが十分でないようです。

  今回はIAEAがお墨付きを与える前に、日本政府が方針を示していたことから、批判する口実、すきを与えたのかもしれません。



  2012年の反日デモでは、日系スーパーや自動車販売店が襲われ、日本製品の不買運動へと発展しました。
その時の日系企業の被害額は最大100億円だったといいます。

  今回は日本から水産物の輸入が止まり、その影響は大きくなりそうです。



  では、この反日の動きは収束するのかというと、専門家は「民衆から自発的に発生したというよりも何か仕掛けがあったのかなと思うが、昨日から収束に向かっているという印象を持っている」といいます。

  昨日の共産党系メディアの社説に「情緒を煽る言動は慎むべき」とあり、2012年の反日デモでもそうした社説が出た直後に収束に向かったといいます。

  英語メディアでは中国側に批判的な内容が多く、どこの国が見ても“やりすぎ”と報道されると、これは中国には不利と考えるのではないかということです。



  中国が市民の反対運動を後押しした理由は、中国のGDPがこれまで6%以上だったのが今年は5.2%と国内経済が低迷し、若者の失業率は20%を超え、市民の不満が共産党政権に向かわないように日本をスケープゴートにしているといいます。

  中国政府は、反日感情を外交カードとして使って、日本が中国に課している半導体製造装置の輸出規制の撤廃など、あらためて要求してくる可能性も出てきそうです。



  いずれにしても、今後の中国との関係では、2012年の反日デモや今回の事例を教訓に、それぞれの立ち位置を見間違いしないようにして、情報戦で有利な展開に持ち込まないといけないようです。

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2023年08月29日

ベトナム、南シナ海拠点拡大

ベトナム政府が、中国やフィリピンなどと領有権を争う南シナ海で軍事拠点化を進める計画が判明しました。

南沙諸島の一部で船舶を停泊させる施設の建設や軍事施設の増強を検討している模様です。

領有権問題で存在感を発揮する狙いがあるようですが、周辺国からの反発は必至です。



南沙諸島でベトナムが実効支配するファンビン島とティエンヌ島の施設や軍事関連施設を増強したり新設したりするといいます。

具体的には南沙諸島の岩礁を埋め立てて巨大なドックを建設し、ミサイル設備や゛対空砲を増強するようです。

予算は総額で約400億円を見込んでいます。

軍関係者だけでなく一般市民も居住できるよう住宅や移動手段、エネルギー供給施設や汚水、ゴミ処理施設も整備する見通しです。



ベトナムが積極的に領有権を主張し、埋め立てや設備の増強を通じて南沙諸島での存在感を高める姿勢が鮮明となってきたことで、中国やフィリピンなどが対抗して自国でも追加の埋め立てを実施する口実を与えることにもなるかもしれません。

懸念されるのはシーレーンへの影響で、南シナ海は国際的な海上物流網において重要な役割を果たしており、排他的な領有権の主張や軍事インフラの増強が過熱すれば安全性に影響を及ぼす可能性があります。


7月13日にはASEANと中国が南シナ海における行動規範を策定する指針で合意したと発表したばかりで、今後のASEANで火種になりかねないリスクが出てきました。
posted by 川上義幸 at 17:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2023年08月28日

水不足、物流・食料に波及

気候変動による水不足が世界のビジネスの足かせになっています。


運河や河川の水位が下がり、輸送の遅れや物流費の上昇につながっています。

干ばつで穀物などの不作が相次ぎ、オリーブ油は最高値をつけ、慢性的な水不足は今後も続き、経済活動への影響が一段と広がるとの指摘があります。



現在、大西洋と太平洋を結ぶ海上輸送の要所のパナマ運河で、130隻もの船が通行待ちしているといいます。
運河に水を供給する湖の水位が7月下旬に低水準になり、運河の水が不足しているためです。

パナマ運河は通行のたびに水が海に流れ出る仕組みで、節水のため1日に通行できる船の数を32隻と通常から1割超減らし、通行待ちの船が渋滞を起こしています。

大型のコンテナ船などは重量を減らす必要があり、重量制限で積みきれない荷物も発生している模様で、貨物船の需要は高まる一方です。



ドイツの国内物流の大動脈であるライン川も水位低下による物流の目詰まりが懸念されています。

ライン川の水位が135cmを下回ると半分まで減らす必要があり、75cmを下回ると3割まで減らす必要が出てきます。

2022年8月のドイツ国内の貨物輸送量は前年同月比で27%減りました。



干ばつも深刻で作物が育ちにくく、食料価格が高騰しています。

その一つがオリーブオイルで、主産地のスペインで昨年以降、原材料のオリーブの収穫量が減少し、オリーブオイルの価格が前年比2倍超になっている模様です。


コメの作況も悪化しています。

米国では中・短粒種の2022年産の生産量が前年比3割減りました。

南米沿岸などの海水温が上昇するエルニーニョ現象に伴う降雨不足で、タイの生産量が前年度から2.5%減少する見通しです。



世界資源研究所によると、世界の約40億人が年に1か月、干ばつや洪水などの水に関わる被害を受ける環境にあり、気候変動で影響を受ける人数は今後増えるといいます。
posted by 川上義幸 at 21:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2023年08月27日

炎天下のゴルフ

  今日までの4日間、例年になく暑い炎天下の中でSansan KBCオーガスタゴルフトーナメントが芥屋ゴルフクラブ行われ、30年ぶりぐらいとなるでしょうか、久しぶりに一昨日、竹谷佳孝プロの応援に行ってきました。
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  優勝は韓国の宗永漢選手で、他の選手が深いラフで苦しむ中で、ステディなゴルフで昨日より3つ伸ばしての優勝でした。

  最終ホールはティーショットを右に押しやって急斜面の深いラフにつかまってしまい、第二打が全く前に飛ばず、それも打球を体に当ててしまいました。

  解説者がペナルティになるかもしれないという話からプレーオフになるのではという憶測が飛びましたが、ルールが4年前に改正されたようでノーペナルティーだとわかり事なきを得たようです。


  竹谷プロは、観戦した二日目は前半に4つスコアを伸ばし、上位進出が期待されましたが、後半の出だしで痛いダブルホギーを叩いてしまいました。

  残りはパーでまとめ今回決勝トーナメントに進出することができましたが、最終的には本日3オーバーとなり、41位タイで終わりました。

  今大会はバーディも多く出て、次につながる大会となったようで、次回を楽しみにしましょう。



  30年前当時は、プロゴルファーの競技を目の前で見ることができて感動していましたが、今の大会はそれに加えて観客を楽しませるアトラクションが実施されていました。

  スタートホール付近ではBGMがかなりの音量で流れていて、選手のティショットやパットに影響が出るのではと心配しましたが、常に流れていれば問題ないということでした。

  あくまでもゴルフ競技なんですが、イベント的な要素が加わっていたのには驚きです。  

  PayPayドームで見られるプロ野球的な色彩を帯びてきました。



  昨日、ゴルフに行ってきましたが、ティショットの弾道の違いをまざまざと感じ、プロとアマチアとの違いだけでなく年齢による衰えを痛感した次第です。

  今後は、年齢に応じた距離をカバーする安定性を身に着けたいものです。
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2023年08月24日

中国、不動産依存に限界

中国経済が揺れています。

不動産不況、地方の財政難、人民元安の3つが発火点になっており、住宅販売不振で不動産価格の上昇を前提とした成長モデルがきしんできています。

地方財政の悪化と約15年半ぶり水準に迫る人民元安が足かせとなり、中国政府は思い切った財政・金融政策を打ち出せないジレンマに陥っています。



「我々は住宅ローンを払わない」、売主の建設代金未払いで工事が進まず、予定の期限を過ぎても一向に引渡がされないためです。

こうした動きはこれまで地方都市の中低価格物件や別荘などが中心で、今回は一戸1500万元(約3億円)を軽く超えるような高級マンションにまで波及したことに市民の間で驚きと不安の声が上がりました。



中国の不動産不況は深刻さを増しており、7月は主要70都市中49都市で新築住宅価格が前月より下落しました。

単純比較はできませんが、1〜7月累計値から7月単月を算出すると前年同月比24%減、2021年同月比では46%減となっています。

中国恒大集団に続き、中国不動産最大手で高いブランド力を誇っていた碧桂園控肢や中堅の遠洋集団控肢の資金繰り難が表面化しました。

将来の引渡不能リスクを意識し、消費者が未完成住宅の「青田買い」を手控える動きとなっている模様です。



中国の不動産開発会社の経営難は地方政府を直撃し、税収と並ぶ地方財政の二大柱だった土地使用権の売却収入が急減し、財政余力が低下しています。

地方政府傘下のインフラ投資会社「融資平台」に対する資金支援が難しくなっており、債務不履行懸念が浮上しています。

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2023年08月22日

今年もサンマが食卓から遠くなりそう

  秋の味覚、サンマの漁獲が今年も低調になりそうです。

  8月20日に大型漁船の漁がスタートしましたが、水産庁の予測によると、8〜12月に日本近海へ来遊するサンマは、漁獲量が過去最低となった2022年と同水準になり、サイズも従来と比べて小さくなる見込みです。

  サンマの値段は高くなり、食卓から遠い大衆魚になりそうです。



  今シーズンは8月に千島列島の東方沖の公海にサンマの漁場が形成されるといい、9月も公海が引き続き主漁場となり、日本近海では北海道周辺の海域で偶発的に漁場が形成される程度といいます。

  海水温が下がる10月以降も三陸沖を含む日本周辺へはほとんど来遊しない見込みです。



  従来、漁場は千島列島沖から三陸沖に形成されていましたが、昨シーズンと同様に日本から遠方へと離れ、燃料が高騰し、出漁への負担が重くなります。

  気候変動などの影響で千島列島沖から三陸沖に南下する寒流である親潮の流れが弱くなって周辺地域の水温が上昇しています。

  このため、サンマが東の沖合に移動し、日本近海まで来遊してこなくなった模様です。



  関係者は、「サンマ漁を巡る環境は悪化するばかりで、少しでも諸経費を削って赤字を減らすか、船を動かさず漁を見送るかの2択だ」と嘆きます。


  サンマの漁獲量の減少は、資源量自体が減っているのに加えて外国漁船による過剰漁獲などが一因との指摘もあります。


  いずれにしても、庶民の食卓から遠くなっていくことは確かで、スーパーの店頭でかつては1匹100円で買えた頃が懐かしく思えます。

posted by 川上義幸 at 16:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2023年08月21日

持続的な観光が磨く品格

  持続可能な観光を掲げる地域が増えています。

  観光を通じて地域の品格を磨き、存続につなげる、知的な営みとして富裕層が好む傾向にあり、政府は質の高い観光立国の柱に据えています。



  持続可能な観光には、GSTという国際基準があって、観光地の経営が堅実で、地域の社会経済、文化、環境の持続につながっているかを評価し、基準を全て満たせば国際認証が得られます。

  認証された観光地は世界でも数えるほどで、日本で最も近いのが岩手県の釜石市のようです。

  認証の前段階として世界の優良事例百選に5年連続で選ばれ、昨年は基準の7割を達成したようですが、認証への道のりはまだ長いといいます。



  しかし、基幹産業の製鉄や漁業が低迷し、東日本大震災の復興途上にある地域に活力を生んでいます。

  漁師が空き時間に漁船で釜石湾を巡る漁船クルーズはその一つで、漁師自ら案内役となり、製鉄所の栄華やリアス海岸の美観を解説し集落の近くでは震災の語り部となります。

  これは釜石の暮らし全てを博物館に見立てる観光戦略の一環です。

  観光客との触れ合いで住民が日々の営みに誇りを持てば、地域に品格を生み、将来に残そうという意欲につながります。



  市民調査では「観光に協力したい」という声が7割にのぼり、観光意識の浸透は国際的に高い評価を得る一因になります。

  司令塔のかまいしDMCは、地域に眠る知恵を観光資源に眠る知恵を観光資源に練り上げることに力を入れており、震災で釜石の奇跡と称賛された防災教育、迅速な復興過程で培った危機下の組織運営やリーダーシップのあり方などを教材にした研修観光を展開します。

  トヨタ自動車のような大手企業が訪れ、震災の当事者から組織論や行動論を学び、大手企業と接することで研修をレベルアップする好循環も生まれているようです。

  かまいしDMCの代表は、観光事業を「管理する観光」と「管理しきれない観光」に分け、一般の観光客は管理しきれないですが、管理する観光の研修観光は再訪が多く収益が安定しています。



  今は管理する観光が7割と観光地の経営は安定しています。

  品格のある知的な営みは人を引き付け、観光資源を増やす知恵が釜石には詰まっているようです。



  同様な事例となると思いますが、「水のある街」「水のある風景」ということで佐賀のまちを売り出してはということを市の担当者に提案したことがありました。

  当時は「管理する観光」という位置づけを意識したことはありませんでしたが、佐賀市水対策市民会議を通じて市民の清掃活動がありますから、それを基本とし行政が樋管や樋門のネットワーク管理を市民、関係者の協力のもとに『佐賀方式の水管理』を作り上げてはどうか。

  そうすれば、限られた水資源を有効活用し、流域治水の取組みにもつながり、全国から『佐賀方式の水管理』の視察に多くの行政他関係者が佐賀を訪れるようになると。

  そうすることで宿泊者が増え、お酒や佐賀らしい食へのつながりも期待でき、地域経済の発展にも貢献するようになると思います。
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2023年08月19日

スウィフトフレーション

世界が注目している歌手のテーラー・スウィフトさん。

3月からライブツアーを行っていて、日本を含めて146回公演を予定しています。

すごい人気で、米国では社会現象となって、消費の起爆剤となっています。



ツアーに関連する消費額の見通しは、米国だけでも46億ドル(約6700億円)といいます。

スウィフトフレーションとも呼ばれ、米国では連日、数万人が集まるなどスウィフト旋風が起こっています。

ロサンゼルス公演会場のファンは、「アリゾナベガスに続いて3回目なの。テイラーは最高!いくら払ってもいい」「テイラーを愛している」「性格も音楽も好き」と熱狂的です。



コンサートにかける費用はというと、「チケット2人分で3000ドル(約43万円)」といいます。

もう一つのグループでは「ホテルは1泊400ドル(約6万円)、駐車場代86ドル(約1万円)、チケット代は2人合わせて1000ドル(約14万円)」ということでした。

スウィフトさんを一目見るために大金を惜しみなく出しています。

実はスウィフトさんの講演を行っている地域ではホテル代、タクシー代が急騰しているようで、さらにチケットが高額で転売されていることもあり、スウィフトさんの公演が物価上昇につながって、“スウィフトフレー
ション”という言葉まで生まれています。



ニューヨークのアートデザイン美術館では、スウィフトさんの衣装の展示イベントが行われていて、展示室はライブ会場の雰囲気となっているようで、入館者は3か月で約5万人と、女性客を中心に想定外の反響となっています。

館長によると、彼女には世代を超えた普遍的な魅力があり、誰もが経験する失恋の苦しみを巧みに表現できるからだといいます。



スウィフトさんだけでなく、歌手のビヨーズさんや映画バービーのヒットも加わり、堅調な経済が続く米国。

経済の専門家は、中高所得者はこれまでコロナ禍で外食や旅行を控えていましたが、その間に増えた貯蓄が今の消費の原動力となっているようで、ただその勢いもこの夏で終わり、今後は消費の伸びもコロナ以前のトレンドに戻るだろうと話しています。
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2023年08月18日

九大箱崎キャンパス跡地

九州大学箱崎キャンパス跡地に建設するのはアリーナか、それとも商業施設か、再開発案がまとまらないようです。


当初は九州電力やJR九州などの地元企業と住友商事、東京建物などが共同入札に向けて検討を進めていましたが、意見が分かれて白紙となった模様です。



再開発の対象は、箱崎キャンパス跡と市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線の貝塚駅周辺エリアで、東京ドーム10個分に相当する50ヘクタールですが、九大と都市再生機構はそのうち約30ヘクタールを開発する事業者を公募し、最低譲渡価格を371億円に設定しました。

残る約20ヘクタールは福岡市が主体となり公園や中学校などの公共施設の整備を進めることになっています。



再開発を巡っては、九電や九電工、東京建物は国際会議や大規模展示会などの「MICE」を誘致できるアリーナ案を構想していました。

一方、JR九州や西日本鉄道、西部ガス、住友商事は商業施設などを軸にする案を検討していました。

結局、入札に向けた連携は6月に解消し、各社の意見がまとまりませんでした。


「年間の稼働日数が限られるアリーナは現実的ではない」「ららぽーと福岡が2022年に開業したばかりで、商業施設はよく精査することが必要」とごもっともな意見が出て決め手に欠くようです。



福岡市と九大は再開発に向け新たな高等教育・研究機関の導入や持続可能なまちづくりを目指す「グランドデザイン」を策定していますし、JR九州は鹿児島本線の千早〜箱崎間に新駅を設置することを考えています。

九大箱崎キャンパス跡をアリーナにするか、商業施設にするか、それともそれ以外にするか、開発規模が50ヘクタールに上り、まちづくりへの影響が大きいだけに、企業の思惑だけでなく、市民も巻き込んだ議論も必要のようです。
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2023年08月17日

イタリア、中国との距離

イタリア政府が中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱に向けて動き出しました。

イタリアは2019年、G7(主要7カ国)で初めて一帯一路に参加していて、ヨーロッパへの影響力拡大を目指してきた中国にとっては大打撃です。

2013年に習近平(シー・チンピン)国家主席が一帯一路構想を提唱して10年という節目の年に、中国はメンツをつぶされた格好です。



中国はヨーロッパの国、とりわけ西ヨーロッパの国が参加していることを誇りにしていました。

これまでヨーロッパは、アメリカほど強い姿勢で中国に臨んできませんでしたし、特に経済面のデカップリング(切り離し)を強硬に推し進めてきたわけではありません。



一帯一路は、中国のインフラ輸出を後押しし、さらには中国が地政学上の影響力を拡大させる手だてになってきました。

現在までに東欧諸国を中心にEU加盟国の3分の2が一帯一路に参加して、中国からの投資を呼び込み、自国経済のテコ入れを図ろうとしてきました。

これらの国々の多くは、イタリアと同様、経済の不振にあえいでいて、中国からの投資が自国経済に大きな恩恵をもたらすと主張していました。



ところが、イタリア経済は一帯一路によって期待どおりの恩恵に浴せず、中国側は総額28億ドルのインフラ投資を約束しましたが、イタリアに好景気は訪れませんでした。

イタリアの対中輸出はほとんど増えず、中国からイタリアへの直接投資は大幅に減っています。

イタリア政府は、中国に厳しい姿勢で臨むようになっていて、ドラギ前首相は昨年、中国への技術移転にストップをかけ、中国企業によるイタリア企業の買収もたびたび阻止しました。

メローニ現首相は、もっと強硬で、イタリアのタイヤメーカー、ピレリに対する中国企業シノケムの影響力を制限する措置を講じたり、台湾への支持を明確に表明したりしています。



テクノロジーをめぐる中国と西側の対立が激化するなかで、ほかのヨーロッパ諸国も中国との経済関係を見直すようになっています。

  7月には、西側の対中輸出規制への報復として、中国が半導体素材のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を打ち出し、こうした緊張関係の下、EUもアメリカと同様に、対中関係での「デリスキング(リスク回避)」に向けて動き始めています。



  一帯一路が習氏の政治的なレガシーに不可欠な要素であることを考えると、イタリア政府の一帯一路離脱の方針が両国関係に影響を及ぼすことは避けられそうにありません。

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2023年08月16日

訪日中国客

中国から日本への団体旅行が約3年ぶりに解禁されました。

民間試算では団体旅行の再開で2023年の訪日中国人は198万人分上振れすることが期待されています。

新型コロナウィルス禍で落ち込んだインバウンド復活の期待が大きい一方、人出不足で受け入れ態勢に不安があり、どこまで回復するか見通せない状況です。



中国人の旅行支出は欧米諸国に匹敵します。

観光庁によると、2023年4〜6月の訪日客1人当たり旅行支出は中国人は33万8000円で、国・地域別では1位の英国(36万円)に継ぐ2位です。

韓国や台湾などほかのアジア諸国・地域と比べても倍以上に多くなっています。

これまでの4〜6月は個人客が多く富裕層が中心とみられますが、団体ツアー客も円安を踏まえた大規模消費や高級ホテルなどへの宿泊を通じて経済の押し上げ効果が期待されます。

政府は訪日客数を2025年に約3200万人にする目標を掲げ、達成にはコロナ禍前に全体の1/3ほど占めていた中国客が欠かせないというわけです。



一方で受け入れ側の問題で訪日客数の回復ペースが鈍化する深刻な人手不足というリスクがあります。

企業は人手不足を乗り越えようと知恵を凝らし、京王プラザホテルでは15%減少した従業員を自動チェックイン機を導入して対応しています。

マツキヨココカラ&カンパニーは免税店対応店をコロナ禍前と比べて5割増やして対応の準備をしています。



夏休み以降の海外旅行先として人気なのは、東京やシンガポール、バンコクとなっており、9月29日から10月6日には中秋節と国慶節に伴う大型連休を控え、中国人の海外旅行需要の先行きを占う試金石となりそうです。
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2023年08月15日

太平洋戦争におけるラジオ放送の役割

  今日は78回目の終戦記念日を迎え、政府主催の全国戦没者追悼式が東京都千代田区の日本武道館で開かれました。

  天皇、皇后両陛下や岸田文雄首相、戦没者遺族らが参列し、日中戦争や第二次世界大戦で犠牲になった約310万人を悼みました。


  第二次世界大戦は日本にとって悲劇的な大敗を喫した歴史に語り継ぐべき戦争となりました。

  この破滅的な戦いを日本はなぜ回避できなかったでしょうか?



  今日は、太平洋戦争中、日本軍の戦いを支えたもう一つの戦い、ラジオ放送を取り上げます。

  ナチスのプロパガンダにならい「声の力」で戦意高揚・国威発揚を図り、偽情報で敵を混乱させたようです。


  戦前、戦中と日本の海外勢力圏拡大に伴って、ラジオの放送網も海外に広がっていきました。

  太平洋戦争より前、1927年には、朝鮮の京城放送局が放送を開始し、1928年には、台湾の台北放送局が放送を始めました。

  そのほか、満州や中国にも、放送局を開設していきます。

  太平洋戦争が始まり、日本が南方に勢力圏を広げていくと、フィリピン、シンガポール、インドネシア、ミャンマーなどにも次々と放送局を開設していきます。


  当時の放送協会は、今のNHKよりずっと小さくシンプルな組織でした。

  アナウンサーは原稿を読むだけでなく、前線取材や番組企画など放送全般に関わり、外地や南方の放送局の多くでは、赴任したアナウンサー・元アナウンサーが運営や放送を主導しました。


  “日本化”を進める中で、外地・南方各地の放送局が積極的に利用したのが、ラジオ体操でした。

  南方各地で普及するラジオ体操は、日本の支配地拡大の象徴とみなされました。


  当時、南方の放送局はすべて軍の管轄下におかれていて、ラジオ放送を使って日本軍の戦闘を支援することもありました。

  偽のニュースによって敵軍を混乱させる“謀略放送”で、砲弾より戦闘機より速く遠くへ届く電波、「ラジオは声の兵器」とうたわれたようです。



  現在の戦争、ロシアとウクライナの戦いでは、通常の武力攻撃だけでなく、サイバー空間での攻防も繰り広げられています。
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2023年08月14日

7月の世界的な猛暑

  EUの気候情報機関は7月の世界の平均気温が1940年から観測史上最高となった発表しました。


  気候変動の専門家であるウッドウェル気候変動研究センターのジュニファー・フランシス氏は次のように話をしています。



  これほど暑くなったのは、過去数十年にわたり化石燃料を燃やすことで地球から放出された熱を閉じ込めるガスを大気中に放出し続けているからです。

  さらにエルニーニョ現象が発生しています。

  過去にさかのぼると、暑い年にはエルニーニョ現象が発生している傾向があります。

  今年の7月には過去10万年以上で最も暑い月だと推定していて、地球が劇的に温暖化している中でも驚異的です。

  気温の上昇が続くことにより、災害も増えています。

  ハワイのマウイ島で山火事もそうです。

  死者はこれまでに93人に上るといい、アメリカで起きた山火事の犠牲者としては過去100年余りで最多だということです。

  ただ、長期的に企業や行政の努力次第で状況は変わる可能性はあります。

  少なくとも発電に関しては、化石燃料に頼る段階は過ぎ、太陽光や風力発電でよく、再生可能エネルギーの発電所を建設する方が汚染的な天然ガスよりもはるかに安くなっています。

  異常気象はすべて関連していて、短期的に悪化の一途をたどっていますが、長期的にはどうなるかはエネルギー転換、そして私たち個人がどうするかによって決まると話します。
posted by 川上義幸 at 14:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2023年08月12日

エマニュエル・トッド氏のウクライナ戦争の見立て

  2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した日から今日まで続く、ウクライナ戦争ですが、このままでは世界的な戦争に発展するのではないかという危惧もあります。

  フランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏は、すでに第3次世界大戦は始まっていると指摘します。




  そして、トッド氏は、ウクライナ戦争を次のように見ています。

  「まず経済面から始まった」とも言え、ヨーロッパやアメリカがロシアという国を経済的に、最終的には社会的にもつぶすという目的で始めた経済制裁もまた、戦争の一端であるわけです。

  この経済制裁に、ロシアは耐えていますが、いまだにロシアの経済が安定しています。


  経済のグローバリゼーションが進んでいくなかで、「生産よりも消費する国=貿易赤字の国」と「消費よりも生産する国=貿易黒字の国」との分岐がますます進んでいます。

  ロシアはインドや中国とともにまさに後者の代表で、天然ガスや安くて高性能な兵器、原発や農産物を世界市場に供給する「産業大国」であり続けています。

  一方で、前者の貿易赤字の国とはアメリカ、イギリス、フランスなどです。


  財の輸入大国としてグローバリゼーションのなか国の産業基盤を失ってきていて、つまり互いに科している経済制裁は、消費に特化したこれらの国のほうにむしろマイナスに効いてくる可能性があるわけです。

  一種の神話的な立場だった「経済大国アメリカ」は、いまは生産力の点で非常に弱体化してきています。

  1945年時点でアメリカは世界の工業生産の約半分を占めていましたが、いまは違います。


  ウクライナ戦争はロシアにとって死活問題であると同時に、アメリカにも大問題なのです。

  アメリカの生産力でとくに問題となってくるのが「兵器の生産力」です。

  この先、ウクライナ戦争が長期化したとき、工業生産力の低下するなかでウクライナへの軍需品の供給が続けられるのか、むしろロシアの兵器生産力のほうが上回っていくのではないか、そこは西側としては心配な点でしょう。

  アメリカがこの戦争から抜ける、それはアメリカにとって「ウクライナへ供給する兵器の生産力が追いつかなかった」という点で、「負け」を意味するからです。




  そしてトッド氏は、ウクライナに対して次のように見ています。

  ウクライナは破綻国家であり、国家としての体をなしていない。

  ただ、戦争が始まり、その真っただなかで政府の汚職高官が追放されるなど汚職撲滅の動きもあるようです。


  国としてのまとまりが全くなかったウクライナが、ロシアの攻撃で自分たちの土地を守らなければならなくなったという、きわめて皮肉な形ではありますが、むしろウクライナの民族意識が深まってきた。

  この戦争によって国家意識、国民意識が強化されている面はあるでしょう。

  ただ、ウクライナにおけるロシア語圏は、この戦争によって崩壊しつつあり、ロシア語圏にいる中流階級がどんどん国外に流出しており、中流階級がいなくなった国は崩壊していく傾向があります。

  その一方で、国家意識、国民意識というのはウクライナ語圏で強化された、と言えるのではないかと思います。
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2023年08月11日

気候変動需要

気候変動の影響でしょうか、日本列島はうだるような暑さ、猛暑日が続いています。


気候変動を逆手に取るように、世界有数の観光大国タイが新たな観光客をひきつけているようです。

年間通じて気温が30度前後の熱帯のリゾート地が取り込んでいるのが避暑需要です。


世界中が熱波に見舞われ、タイが相対的に涼しく感じられるようになったからだといいます。

まさに、気候変動の影響による新たな需要です。



カリフォルニア州は連日高温に見舞われていて、熱波が到来している米南部だけでなく、カルフォルニア州の一部でも体温を上回るような異常な暑さが続いているといいます。

7月16日には同州デスバレーで気温53度まで上昇しました。

米カリフォルニア州の男性が、バンコクの繁華街のバーで「タイは湿度は高いけれども、地元に比べればはるかに涼しい。ビールがあれば天国だよ」と話すのが納得いきます。



英国人の中にも夏休みの行き先がスペインからタイに切り替えた話を聞きます。

イタリアやスペインなど南欧の一部で気温が40度超に上昇し、体調不良による救急受診も相次いでいるからです。

高温の見舞われた地域では当局が外出を控えるよう呼びかけていて観光は難しい事情もあります。



気候変動の思わぬ副産物として生まれた避暑需要は、新型コロナウィルス感染拡大で打撃を受けたタイの観光業にとって恵みの雨となったようです。

欧米や日本などが夏休みシーズンの6〜10月は浮きにあたり、これまであまり観光に適さない時期とみられていたので、この時期に観光客を呼び込めれば、新たな成長の可能性が見えてきます。


タイ東部のリゾート地パタヤでは、離島ラーン島に向かうフェリーが満席の状態で、ロシアやインド、ドイツなど多様な国籍の観光客が同島を訪れ、海水浴やビーチ沿いで飲食を楽しんでいます。
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2023年08月10日

地域の未来をつくる大学

地域人材の育成に大学が果たす役割への期待が大きくなっています。


三重大学は2009年度に大学院地域イノベーション学研究科を設立しました。

ここには地域企業の経営者が社会人院生として入学し、事業課題の解決を目的とした研究に取り組み、博士号を取得しています。


これまでに20人の「社長」が博士号を取得し、彼らの活動の中から新しいビジネスモデルが生まれています。



たとえば、津市の農業生産法人「浅井農園」の浅井雄一郎氏は食用油製造企業との共同出資会社を立ち上げ、搾油工場が廃棄していた熱水を施設栽培に利用することで高収益型のトマト生産農業を実現しました。


また、伊勢神宮内宮の門前町の大衆食堂「ゑびや」の小田島春樹氏は機会学習を駆使した顧客予測に取り組み、事業収益を著しく高めました。



このように地元企業の経営者を博士課程で鍛えることで経営革新への貢献に取り組むのは三重大学の西村訓弘教授です。

西村教授は、もともと地域経営者たちと経営課題を題材に議論を尽くす「研究室ゼミ」を行っていたようで、ゼミでは1人の発表者が題材を提供し、参加者全員で討論しています。


経営課題の本質を見出し、発表者がもつ強みを客観的に理解することで解決のための気づきを与え、誰もが納得するまでエンドレスで議論するタフなゼミを行っています。



大学院での教育がなぜ事業成長につながったのか、その原動力は経営者たちの変容にあるといます。

議論の中で彼らは経営上の課題をさらけ出し、自らの強みと社会の現況を的確に理解して進むべき方向と手段、すなわち新たな事業の構想に気づき、その気づきを自らの場(企業)で実践し検証したといいます。

気づき・実行・検証を繰り返すことで事業が最適化され、発展に導かれたといい、経営者たちに「考える習慣」が形成され、大学教育の基本である「論理的思考」が徹底的に叩き込まれたようです。


三重大学の取組みは、改めて大学の地域に果たす役割の重要性を示したことになりますが、このような教育をリードする上で教員の存在が大きいことがわかります。
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2023年08月09日

海没遺骨収集

  今日9日は長崎の原爆記念日です。

  6日の広島に続いて平和祈念式典が、台風の影響もあって室内で行われたようですが、年々被爆者が減って、今回は会場の関係もあってか参列者がいなかったようです。

  被爆体験をどのように伝え、戦争のない世界をどのように築くか、ウクライナ戦争を目のあたりにして強く
感じます。

  15日の終戦記念日まで、悲惨な太平洋戦争の爪痕を残した事象が報道されます。



  太平洋戦争では、3000を超える日本の艦船が海に沈んだとされます。

  水深37メートルに沈んだ船の内部は劣化が進み、今は魚の寝床になっているようです。

  かつて「トラック諸島」と呼ばれ、太平洋戦争中には中部太平洋の防衛の要として日本海軍が一大拠点を築きました。


  戦艦・大和や武蔵も停泊し、一時は数万人の日本人が暮らしていたとされています。

  しかし、1944年2月のアメリカ軍による「トラック空襲」では40隻もの艦船が沈められたことから、その後”海の墓場”とも呼ばれました。



  この場所で国がことし3月、沈没した船に残された遺骨を収集するための調査を行いました。

  国の調査対象は2隻で、このうちの1隻が水深37mに沈んでいる徴用船「神国丸」、もう一つの船は徴用船「清澄丸」です。

  船の全体像を把握するため「フォトグラメトリー」と呼ばれる新たな技術が使われ、フォトグラメトリー
は、被写体をさまざまな角度から撮影し、その写真を解析することで3Dモデルを作成する手法です。

  そしてフォトグラメトリーで撮影した3万枚の静止画から「清澄丸」の3Dモデルを作成し分析することで、船の細かい部分から全体まで、あらゆる角度から観察されたようです。



  厚生労働省の資料によると、太平洋戦争で約35万9000人の日本人が国内外の海で亡くなり、沈んだ日本の艦船は100トン以上のもので約3260隻にのぼるとされています。

  国はこれまで沈没した艦船がどのような状況になっているのか、遺骨の収集が可能かなど詳しく調べることはほとんど行ってきませんでした。



  日本が海外に残された遺骨の収集を開始したのは、サンフランシスコ平和条約で国際社会に復帰した1952年からです。

  ただ、調査のしやすい陸地が中心で、沈没した艦船の遺骨収集については「海は安眠の場所」だという考え方もあるほか、技術的な難しさもあることから、原則、収集しないという姿勢を示してきました。

  そして、人目にさらされているという情報があり、安全に潜ることができると判断したときにだけ収集を行ってきました。

  このため、“海の墓場”とも呼ばれた「清澄丸」が沈む旧トラック諸島で収集が行われたのは平成30年までに6回だけで、国の遺骨調査団によって海外の海から収集されたのは679人にとどまっています。



  ダイビング技術が発達したことで、観光ダイバーが船の中の遺骨を撮影し、「So cool」や「amazing」など、興味本位ともとれることばと共にSNS上にさらすケースが相次いだのです。

  遺族などからは「観光ダイバーの目に遺骨がさらされる場合には遺骨収集を進めてほしい」といった声があがり、国は2020年8月「積極的に情報収集を行い技術的に可能な場合には収容を実施する」と海没遺骨の収集についての新たな方針を示し、ことしの調査につながったようです。

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2023年08月07日

カスピ海の役割

ロシアは、カスピ海を挟んでイランとは南北に向きあっています。

両国がともに欧米から制裁を受け、各国との取り引きが困難となるなか、このカスピ海ルートであれば、どの国も介さずに直接モノを送れます。

そのため両国は「最も実用的な輸送路」として期待を寄せるようになりました。



カスピ海を臨むアンザリは、イランの首都テヘランから北西におよそ250キロの場所に位置し、町の通りには南国風の街路樹が植えられ、水族館や土産物店などが建ち並んでいて、ビーチには家族連れの姿が見られ、ちょっとしたリゾート気分を味わえる。

目の前に広がるカスピ海は、日本の国土とほぼ同じ広さを持ちます。

もともとはチョウザメの卵から作るキャビアや、豊富な埋蔵量を誇る石油資源などで知られています。



ことしに入り、イランはロシアからの穀物輸入を増やしていて、前の年の同じ時期と比べておよそ1.5倍、侵攻前のおととしと比べると、およそ2.5倍に増えたことになります。

さらにエネルギー取り引きも活発になっていて、去年からカスピ海ルートを使ってロシアからガソリンの輸入を始めているようです。

イランからロシアへの輸出額は、ことし3月までの1年間におよそ7億4400万ドルと、前の年に比べ、およそ1.3倍に増えています。

欧米企業などが軍事侵攻でロシア市場から撤退したため、むしろビジネスチャンスが広がっているといいます。



ロシアの視線は、イランの先にも向かっていて、その1つが、今や世界で人口が最も多くなったとされるインドです。

従来のスエズ運河を通る航路の距離が1万6000キロあるのに対し、鉄道やトラック、それにカスピ海の船を駆使することで、半分以下の7000キロに短縮できる形です。

これが「南北輸送回廊」と言われるルートです。



さらに、イラン側の関係者はそろって「ロシアの今の関心は中東の湾岸諸国だろう」と指摘します。背景にはイランが、長年対立してきたサウジアラビアをはじめ、アラブ諸国と関係改善を進めていることがあるようです。

イランの手を借り、ロシアから湾岸諸国へ自国産品を輸出しようという構想で、イラン側も乗り気の構えを見せています。



イランはインフラ整備にも積極的に乗り出していて、アンザリ港では船着き場の数を、ことしに入って2つ増やして22に。将来的には倍以上の45に増やす計画だといいます。

さらに、港の力を最大限引き出そうと進められているのが、港を国内の鉄道網と接続する線路の建設で、9月の完成を目指していて、この港からペルシャ湾までが鉄道でつながることになります。



ロシアにとっては、カスピ海ルートは、戦時経済を維持する上で「新たな生命線」とも言える重要な航路になりつつあるようにも感じます。

欧米の制裁を回避するために活発化したカスピ海ルート。

その将来は、軍事侵攻の行方とも密接に関係することになりそうです。
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2023年08月04日

フレイル

  フレイルとは、「か弱さ」などという意味の言葉ですが、介護が必要な一歩手前の状態を「フレイル」と呼びます。

  その状態にいち早く気付き、機能を改善・維持していくことが重要とされています。

  高齢化が進み、介護が必要な人が急増していますが、その手前のフレイル状態にいち早く気付いて、心身の機能の改善や悪化を防ぐことが重要になっています。



  このフレイルの人を見つけるための健診、いわゆる“フレイル健診”が、3年前から全国の市町村で始まっています。

  75歳以上が対象で、すでに約9割の市町村で実施されています。

  この健診の場で、フレイル状態を判別する1つの目安が、この度、示されました。

  フレイル健診ですでに使われている身体機能や食習慣などを尋ねる質問票を活用し、この質問票を“点数化”して、フレイルを判別する目安を作ったのです。



  ちなみに、フレイル状態の人は、どれくらいいるのかというと、2012年のデータで、地域に住む65歳以上の高齢者2000人余りを対象にした全国調査があります。

  この時は、フレイル状態の人が8.7%で、その前段階のプレフレイルの人は40.8%に上りました。

  ここ数年は、新型コロナの影響で外出する機会が減り、この割合がさらに高くなっている可能性も十分にあります。



  では、健康な状態に戻ることは十分可能ということですが、具体的に、何に取り組んだらよいのでしょうかというと、フレイルを防ぐ、もしくは機能を改善するための主なポイントをまとめると、「食事」、「運動」、「社会参加」です。


   まず食事は、やはり1日3食、バランス良く栄養を取ることが大切です。

  例えば、「さあ、にぎやかにいただく」という言葉があり、これは、それぞれ食品群の頭文字になっています。

  「さ」は魚、「あ」は油、「に」は肉、「ぎ」は牛乳、「や」は野菜、「か」は海藻、そして「いも」「卵」「大豆」「果物」と続きます。

  あわせて10品目ありますが、このうち、出来れば毎日7つ以上、食べることが推奨されています。


  次に運動で、自分の健康状態にあわせて、無理のない範囲で行うことで、例えば歩く「歩数」でいえば、65歳から74歳の人は1日7000歩、75歳以上の人は5000歩という目安があります。


  そして「社会参加」で、人と話す機会を増やすことなどが重要になります。

  出来れば1日1回以上は外出し、家族や近所の人などと交流するとか、ボランティアなどの活動に参加するのも良いそうです。

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2023年08月02日

梅王国・和歌山県

梅の一大産地として有名な和歌山県は、その収穫量は全国の67%を占め、圧倒的な地位にあります。

そんな「梅王国・和歌山県」でいま、産地を揺るがしかねない問題が広がっています。

それは梅の収穫面積の減少です。



そもそも和歌山県の梅栽培は、400年ほど前の江戸時代にさかのぼり、当時の紀州藩・田辺領の家老、安藤直次が、やせた土地を有効利用しようと栽培を奨励したのが始まりです。

税を免除し、保護政策をとり、梅栽培が広がり、その後、品種もどんどん改良されて梅の主力品種となったのが「南高梅」で、肉厚で皮が柔らかいのが特徴です。



梅は、収穫のタイミングによって、熟し具合が変わり、そして、さまざまな用途に使うことができます。

青い実は、梅酒や梅ジュースに、黄色く色づいた完熟した梅は、梅干しやジャムなどに加工されます。



初夏、梅の収穫時期ですが、農家はこの時期に梅の木の下にネットを敷き詰めます。

そして、完熟してネットの上に落ちてきた実をたもですくって梅を集め、落ちた梅は、腐らないよう毎日拾う必要があります。

強い日ざしが照りつけるなか、早朝から晩まで続く「梅拾い」は大変な作業で、人手が足りず、多くの農家はアルバイトを雇って収穫の手伝いもしてもらっています。

梅栽培は、炎天下の梅拾いだけでなく、草刈りや枝の間伐などの作業も過酷で、体力勝負の面が否めません。



梅農家は高齢化が進み、こうした作業に限界を感じ、少しずつ収穫面積を減らしたり、栽培そのものをやめたりする人が増えているといいます。

和歌山県内の梅の収穫面積は平成26年の5140ヘクタールをピークに、去年まで8年連続で減少しています。

とくに急傾斜地の梅農園で収穫を取りやめる例が多いといいます。



高齢者でも管理しやすい栽培方法はないのだろうかということで、みなべ町にある県の「うめ研究所」では、農家の高齢化に対応した新たな栽培方法を確立、普及に乗り出しました。

通常4メートルほどの高さまで成長する梅の木ですが、人の背丈に比べて大きく、栽培は何かと大変です。

そこで、研究所は、幹を伐採して2メートル40センチほどに低くするという、新たな栽培方法を編み出しました。

研究所では、梅の木の短い枝に実をつける習性を活用し収穫量確保の策も考えたといいます。

農作業の省力化とともに、収穫量も大幅に高めることに成功したのです。


和歌山県では各地に、効果を実証する農園を設けて、新たな栽培方法の普及に挑もうとしています。
posted by 川上義幸 at 19:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記