蚕をバイオや食品産業に転用する動きが広がりつつあるようです。
九州大学発のKAICOは蚕に特定のたんぱく質を発現させ、豚の飼料に加えて病気を予防する実験をベトナムで始めました。
豚は生後6か月程度で出荷用に育ちますが、飼育中に豚サーコウィルスにかかると食欲低下や下痢によって体重が落ち、最悪時は死に至ることもあります。
KAICOは無毒化したサーコウィルスの役割を持つたんぱく質の遺伝子を、蚕にしか感染しない「バキュロウィルス」に一緒に挿入し、蚕のサナギに摂取します。
摂取されたサナギは死にますが、4日ほどでたんぱく質を大量に発現します。
サナギを粉砕して添加物に加工し、小規模実験で豚飼料に混ぜたところ、サーコウィルスの症状が発生しませんでした。
ワクチン成分のたんぱく質が体内に入って免疫を作り、ウィルスの増殖を抑えることができました。
添加物を与えない場合と比べ、豚の体重は10%ほど増え、出荷価格に係るため農家収入増につながります。
ウィルス対策はワクチン接種が一般的ですが、1頭ずつの注射には手間がかかりますが、添加物投与ならば作業時間の短縮につながります。
KAICOは双日を通じて飼料添加物をベトナムに輸出し、24年10月から実験を始め、現地の養豚場の2000頭を対象に25年3月まで効果を検証します。
その後は大規模農場に利用を広げ、25年内にベトナムで商用化する計画になっています。
蚕を生かそうと動く新興企業はほかにもあります。
Morusは蚕の幼虫を粉末状にし、代替たんぱく源として東南アジアのレストランやジムに販売しており、24年
にはシンガポールに販売拠点を設けました。
また、愛媛県で地域共創型の養蚕産業を展開するユナイテッドシルクも有力な蚕スタートアップで、22年には2億円を投じ、養蚕を自動化する「スマート養蚕システム」を導入しました。
粉状にして微量をパンに混ぜればしっとり感が増し、麺類に配合すればコシのある食感にできるといいま
す。
用途が拡大し、企業が蚕の調達を増やせば、養蚕業の維持にもつながります。